恋して、チェリー
キナか比奈かな……?
最後にどこか行こう、とか?
でも、待って。
キナは旅行、比奈は彼とデートのはずじゃ――?
平穏だった波がにわかに荒れるように、ざわつき始めた胸の鼓動。
嵐の前触れ、予感。
胸騒ぎを覚えながら。
――ためらいがちに、ボタンの上の親指に力を込めた。
「おはよ~」
「夏休みどうだった?」
「彼氏とお泊まりだったんでしょー?」
「えへへ……」
夏休みが明けた教室、女の子たちの弾む会話。
いつもより盛り上がるテンションをあたしは少し遠くから見守る。
……いいなぁ。
あの会話に混ざることを期待していた夏休み前。
それも、あっという間に終わってしまった。
部屋の隅に置かれた枯れた花に、やり残した宿題、溶けたアイス。
「いつまでも夏休み気分でいるなよ~」
先生が話す続きの言葉も頭に入らないまま、青が僅かに濃くなった空を見上げた。
――秋は、もうすぐそこ。
茹だるような暑さは、少しずつ姿を変え……肌を撫でる風を冷たくしていく。