恋して、チェリー
最近ご無沙汰だった女探偵の血がにわかに疼く。
本当に偶然だったの――?
両親の都合でこっちに引っ越して来たって――?
あたし的、理論でいけば元カレと会うのはモチロンNG。
新しい恋に踏み込むには、彼を忘れ過去にするという代償を伴うもの。
過去には出来た、けれど。
……でも。
今度こそ、あなたの方から終止符を、と願ってしまったけど。
直接会ってしまっていいの……?
彼が望んでいるのなら、あの時の罪を償う意味で“会うべき”と判断する自分と。
妙な胸騒ぎがまだ、静まらない。
何かが起こる、“会ってはダメ”と、どこか怯える自分。
このマラソンの練習が終われば、自然と決まるはず。
雲ひとつない空に上がった息を目一杯吐き出しながら。
あたしはただ、ひたすら走った。
外周を終え、校内のトラックに着いた頃。
あたしの視線は自然と教室の窓へと向けられる。
真っ直ぐ前に固定された、生徒たちの横顔。
その中に、何気に見つけてしまった――とある教室。
……ううん、何気にじゃない。
今でも続く、悲しいあたしの癖。
彼の教室。