恋して、チェリー


最近ご無沙汰だった女探偵の血がにわかに疼く。


本当に偶然だったの――?

両親の都合でこっちに引っ越して来たって――?



あたし的、理論でいけば元カレと会うのはモチロンNG。

新しい恋に踏み込むには、彼を忘れ過去にするという代償を伴うもの。


過去には出来た、けれど。

……でも。


今度こそ、あなたの方から終止符を、と願ってしまったけど。


直接会ってしまっていいの……?


彼が望んでいるのなら、あの時の罪を償う意味で“会うべき”と判断する自分と。


妙な胸騒ぎがまだ、静まらない。

何かが起こる、“会ってはダメ”と、どこか怯える自分。


このマラソンの練習が終われば、自然と決まるはず。


雲ひとつない空に上がった息を目一杯吐き出しながら。

あたしはただ、ひたすら走った。




外周を終え、校内のトラックに着いた頃。

あたしの視線は自然と教室の窓へと向けられる。




真っ直ぐ前に固定された、生徒たちの横顔。

その中に、何気に見つけてしまった――とある教室。


……ううん、何気にじゃない。


今でも続く、悲しいあたしの癖。


彼の教室。


< 185 / 202 >

この作品をシェア

pagetop