恋して、チェリー
「はぁ……っ、」
上がる息に、走ることに集中しようと無理やり視線を空へと追いやる。
見ちゃ、ダメ――。
彼にとっても、彼女にとっても迷惑だし。
マラソンの練習は、他の組と合同で行われているのだ。
その中に3組もいて、走り始めるタイミングを先生たちが微妙にズラした為。
彼女は、……胡桃ちゃんは。
直接後ろを振り向いて確認する勇気はないけど、多分後ろの方を走ってるはず。
比奈辺りかな――?
トラックが残り1周に迫った時。
嫌でも目の前に校舎が見える。
空に向けていた視線を、今度は、ストンと地面に落とした。
あと、もうちょっと……。
空也には、直接会う。
それが今のあたしに出来ること。
あの時の償い。
もう、あたしの心はこの時既に、決まっていた――。
ふと、……ジリジリした視線を感じる。
最初は、勘違いだと思っていたのに。
視界の隅に並んだ生徒たちの横顔の中。
何か違和感を感じる。
……あ、その中のひとつだけが、“誰か”がこっちを見てるんだ。