恋して、チェリー
なぜだか分からないけど、額に汗がジワリと滲む。
あれ、確か、あの教室は……?
――あたしの頭は自然と持ち上げられていた。
「……恭一くん」
彼の顔が、彼の瞳が、彼の唇が。
あの時の切ない程の愛しさが。
苦しい程に今、蘇る。
――まるで時間が止まったかのように。
休まず前に蹴り出していた足が、ピタリと静止した。
最初は、勘違いだと思ったの。
トラックのど真ん中で立ち止まっていることも忘れて後ろを振り返る。
……胡桃ちゃんは、いない。
ドキドキと加速する胸にせかされるように、彼の教室に視線が吸い込まれていく。
「……、…っ」
あの瞬間から。
あのトキから止まったままの世界が。
――ボーン、ボーン、ボーン……
あたしの中の古びた時計が、再び鐘を鳴らし、初恋のような甘酸っぱいトキメキを刻み始める。