恋して、チェリー
「ちょっ、ちぇり!?」
比奈の驚いた声が、遥か後ろで聞こえた。
「ちょっと、行ってくる!」
チャイムの音が鳴ると同時に、あたしは鮮やかなスタートダッシュを決めた。
……はずだった。
「っ、……てぇな」
「きゃあ…ッ…」
見事にあたしの体にぶつかる生徒たち。
じゃなく――あたしがぶつかっていってるのか。
昨日を思い起こす、男子のイラついた声。
少し肩を掠っただけなのに、大げさに声を出すギャルパンダ。
……アイシャドウ、崩れてるよ?って忠告してあげたいけど、生憎今はそんな暇ない。
「ごめんなさいっ!」
その一言だけで交わしながら、あたしは昇降口へと走った。
ふと、前方に見えたのは――、
「あの……っ!」
さっき教室の窓から見えた、あの後ろ姿。
気が付いたら、その背中に話しかけてしまっていた。
「……?」
振り返ったその姿は
まるで、――スローモーションのように見え……
「なに?」
……ませんでした。