恋して、チェリー


――『オレなんか忘れて、新しい恋をしろ』

夢なんかじゃ、なかった。

突き放されてもいなかった。


あたしはこんなにも……大事にされていたのに。

少しでも残ってしまった未練は、新しい恋の邪魔をするだけ。


あたしが1番、分かっていたハズなのに。

いつも彼は先回りをして、あたしを守ってくれてた。



――会いに、行かなきゃ。

今すぐ……恭一くんの元へ行かなきゃ!



「はい、すとーっぷ」

涙でぐちゃぐちゃのまま、立ち上がろうとすると、アキ先輩があたしの腕をガッチリと掴んでいた。





「な、んです、か……?」

呼吸が乱れたままのあたしに、またあの白いハンカチ。

ちゃんと洗濯して返したのに。



「鼻かんでもいいから」

場違いな程の笑顔。

なのに、心なしか掴まれた腕は、有無を言わせない強さで。



「忘れてるよね? ――あの子の存在」

そこで、急にハッとする。


そうだ、今……彼の隣はあたしの場所じゃない。

胡桃ちゃん、の――。



「大丈夫、大丈夫。うまくいけば……」

――少しでも、彼女の中に、……“あの人”が今も存在してれば。

きっと何かが変わるから。


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