恋して、チェリー


本人を目の前にしたのもあるけど視線が――あたしに向けられるソレが。



「……」

昨日助けてくれた瞳なんかじゃなくって。

透き通っていないっていうか。


陰っていて、どこか暗くて冷たいモノで。


でも、お礼は言わなきゃ……っ。



「あのっ……昨日は助けてもらって…ありがとう…ございました」


必死になって言えた言葉はその一言だけだったけど。


「昨日、の……?」

あたしのことを思い出してくれたみたいで、その瞳が一瞬で優しい色に変わる。


温かい、色に――。



思い出すスピードに拍車をかけるように欠けた琥珀の月もポケットから取り出した。



「……悪かった」

琥珀の月を見つめるその表情は、申し訳なさそうで。

それは、あたしのことを思い出せなかったこと対してで。


それはそれで、ショックだったけど。


「い、いえ……!いいんです!昨日は助けてもらってありがとうございましたっ」


お礼を言うのが、あたしが越えなきゃならない――ファースト・ミッション。






◇ * ◇


いつもの道。

いつもの帰り道。


夕日に照らされた街を見下ろす坂道。

今日は、恭一くんと手を繋いでいるから体温がいつもより少しだけ高い。


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