恋して、チェリー
「ス、スミマセンデシタ」
片言の日本語でどうにか返事を返して。
この数分後。
2発のビンタを食らったあたしはあの人の教室を探して走ることになるのだ。
◇ * ◇
「キスしていい?」
あたしの暴走劇が始まろうとしていた。
少し高い位置であたしを見下ろすショコラ色の瞳。
茶色でも、焦げ茶色でもない、ミルクチョコみたいな色。
甘い予感に、溶けたチョコレートのように……あたしの心も溶け出すの。
何も言わない彼に、首に腕を回して顔を近付けようとした瞬間。
「――ダメ」
降ってきた言葉は、あまりにも残酷で……冷たくて。
溶け出したチョコは、ハートの型に流れ込む前に冷えて固まってしまう。
「……っ、」
するり、と彼から腕を解いて涙がこぼれないように俯いた。
1ヶ月の間、ギューもチューもしてくれなかったのは、あたしのことが嫌いだったから?
しつこくアタックして来たあたしに、嫌々付き合ってくれてたの?
溶けるように甘かったチョコの味が、みるみる苦味がかっていく。
「顔、上げて」
あたしの顎に降りてくるのは、細長い指。
その指にクイッと持ち上げられ、促されるままに広くなる視界。
「だって、男からするモノでしょ?」
……フツウ。
そう言ってゆっくりと重なったのは、紛れもなく恭一くんの唇だったんだ。