恋して、チェリー
‐‐オプション付き王子
薄汚れたグレーで統一された廊下に、あたしの足音がリズムよく響く。
――キキ……ッ!
何かとてつもなく大切なことを忘れている気がして。
……あたしは急ブレーキをかけたんだ。
「あ、あれ……?」
“橘恭一くんの教室へと向かう”が、今のあたしの目的で。
そもそも、学年は分かったもののクラスまでは知らない……っ!
自分のアホさ加減に呆れつつ、その時のことを思い出す。
確か、体育の授業が終わって、会ったのは昇降口近くの1階。
うちの学校は変わっていて、毎年学年で階がバラバラに変わる。
1年生が、1階。
2年生が、2階。
3年生が、3階。
とか、順序よく並んでいないって先輩から聞いたことある。
現に、今は
1年生が、3階。
2年生が、1階。
3年生が、2階。
みたいな、ヘンテコな造りになっている。
おかげで1年生のあたしたちは、教室の窓から街を見下ろす形で景色を楽しめるけど。
正直、3階までの往復はキツい。
……って。
こんな事言ってるヒマないんだった。
確か、昇降口から西側に向かって歩いてきたとこをあたしが塞いじゃったんだよね。
記憶を辿りながら、廊下を歩く。
「ってことは、2-5より後ってことか」
何組だろ?端から見たら十分怪しい独り言をブツブツ呟きながら、廊下を進む。
そして、――ふと、視界の隅で影が揺れた。