恋して、チェリー


自分の経験論に、理想論をうまく溶かしたところでフルーツの入ったタッパーを取り出した。




「フルーツなんぞ、どうですか?」

まるで、ダンナ、と続きそうな時代劇風に言ってみる。


恋愛初心者ならば、うさぎさんリンゴとか、可愛く切ってみたりするんだろうけど。

今は見た目なんて気にしてらんない。


一口大に切った、りんごにオレンジ、そして大好きなさくらんぼ。



可愛く見せることが目的なんじゃない。

今はソレより、“食べてもらう”ことが何より重要なの。



タッパーを片手に、そっと恭一くんとの距離を縮めた。



「……」

でも、無口な王子は今日も無口なまま。

フルーツなんて、目もくれず。



さすがにしょげたあたしは、その中から大好きなさくらんぼを取り出した。



りんごもオレンジも、さくらんぼも。

どれも、嫌いなのかな……?


じゃあ今度は、グレープフルーツでも入れてこようかなぁ。



あたしがふと、そう思って。

どこか虚しさを放っているタッパーをしまおうとした時だった。




「なんでめげねぇんだよ」

視線はそのまま、景色を見下ろしたままで。

重なるように添えられた指が微かに熱い。


もっと……って、心地よさを感じるより先に。



「オレのこと嫌いになんねぇの?」

熱を持ったその指は、あっという間に――あたしの心をかっさらっていった。


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