恋して、チェリー
なんとなく、分かってしまったんだ。
経験が豊富なら、豊富なりに感じてしまう、オンナの勘ってヤツ。
彼が女の子を遠ざける理由。
女嫌いでも、ましてや告白にうんざりしている訳でもない。
王子が傷を負ってるってことを。
基本、彼は女の子に優しい。
だから、モテる。
あたしを助けてくれたように、困った女の子を放っておけないタイプなんだ。
きっと、相手が誰であれ、あの現場にいた子があたしじゃなくても彼は助けたはず。
そう思うと、まるで古びた天平に重しを乗せたみたいに。
ギシ……ッと、心が軋んだ。
それが、“自分に好意がある”と分かった瞬間、冷たくなる訳。
仮面を被ってしまうのは――…。
「女の子を傷付けたくない、もしくは自分が傷付きたくない」
深追いしない、深追いさせない理由。
ある程度の距離を保って、相手を侵入させない絶対領域が、彼にはある。
とっさに口に出してしまったあたしに、恭一くんが驚いた顔で見つめた。
そんな視線には気にも止めず、あたしはふたごのさくらんぼの片っぽの実を取った。
――プチンッ
「どうぞ?」
人差し指と親指の間の、熟した赤い実。
「好きです、すごく」
その言葉と共に、まるであたしの心を表すような真っ赤なさくらんぼを彼の口元へと持っていった。