恋して、チェリー
‐‐バラの香りの挑戦状
「ねぇ~……ほら、あれ」
「あ……、あの子?」
あたしが王子の彼女になってから女子のあたしに対する態度が変わった。
「ストーカーだったのにね」
「王子も嫌気がさしたのよ」
「付き合わされて迷惑だわ」
ひそひそ声が、どうぞご丁寧にあたしに聞こえる大きさで囁いてくれている。
あたしが王子を追っかけ回した時も、こうして付き合った時も。
女の子のひがみって、本当に底なしだなって――痛感する。
陰口叩くくらいなら、正々堂々と勝負すればいいじゃない。
自分の立場が、“安全”って分かったまま卑怯なことをするのは許せなかった。
「だから何? 陰口叩くくらいなら王子を誘惑して……あたしから奪ってみればいいじゃない」
こんなの、慣れっこだ。
恋愛に傷は付き物。
強がってみせたって、やっぱり傷付くんだ。
軽くキレかけたあたしは、コソコソするふたり組の女の子にこう言ってやった。
「やだ、怖い」
「行こ」
すぐ、こんな有り様だ。
重たいため息を吐き出しながら、靴箱へと向かった。