恋して、チェリー
何かとてつもない事件に巻き込まれたような後ろめたさを抱えながら倉庫を出る。
「あ、名刺……にも」
香水を吹き付けてあるのか、本人から香りが移ったのか。
バラの香りが鼻を掠める。
あたしはあまり好きじゃない……大人っぽい香りだ。
ふと視線の先に見覚えのあるふたつの背中が見えた。
だらしなく着崩した制服に、またもやガムを噛む粘着力のある音。
あたしを襲おうとしたふたり組。
「アイツら……」
ふつふつと体の血が沸騰するような逆流するような感覚に襲われて
ズンズンと距離を縮めていった。
でも、何かがおかしい。
あの日は恐怖を覚えた位なのにその背中は妙にちっぽけに見える。
こそこそしてるというか……。
「ちょ……っ、待ちなさい!」
女探偵の勘がズクリと疼く。
あたしの推理が正しければ……
「……!」
あたしが声をかけた瞬間、こちらに振り向くことはしないものの
ビクリとわざとらしいくらいに、肩が揺れる。