恋して、チェリー
まるで、映画のワンシーンみたいだった。
それを光の当たらないステージの隅で見ているしかない、脇役のあたし。
――…、でも
「はい。ストーップ」
フニャリと気が抜ける笑顔を貼り付けた男子が、ふたりの間に割り込んだ。
――…アキ先輩……。
「こんにちは、くるみちゃん」
あの顔は、笑ってない。
あくまで笑顔を“貼り付けた”だけの顔だ。
「みんなの王子サマに何の用かな?」
この一言で、映画のワンシーンのような雰囲気はどこかへ飛んでいった。
「そうよ! あなた誰よ」
「気安く王子に話しかけないで」
脇に逸れていた女子たちが、勢いを取り戻し始めた。
胡桃ちゃんが一瞬ひるんだ隙に、王子がその枠を飛び出した。
「どういたしまして」
王子に何かを囁かれたアキ先輩はそう、一言だけ返した。
あたしに向かって走ってくる彼は絵本から飛び出した王子サマのようだった。
ステージの隅から、光の当たる場所へと、この温かい手が連れてってくれるんだ。
「来い」
体温が急上昇するのを、全身で感じて。
走りながら、風に揺れる黒い髪を見つめた。