恋して、チェリー


女の子の悲鳴が、通り過ぎる教室から飛んでくる。


脇役からシンデレラへと変身を遂げたあたしは、王子サマの力強い腕に引かれ――走った。




「早く! 魔法が解けちゃう」
「アホか……っ」

12時を知らせる鐘が鳴れば、あたしは普通の女の子に戻ってしまうの……。


今だけは……
あなたのシンデレラでいさせて。



こんな時でも、恋する乙女の妄想は、忘れちゃイケない。

女の子は、いつだってシンデレラなの。


どんな時だって、恋する気持ちは止められないの。



長い廊下を抜けて、非常階段を駆け上る。

立ち入り禁止の柵を越えればそこは……、あたしたちだけの秘密の場所。




「はぁ……っ、……はっ」

上がり過ぎた呼吸を整えるのに、息を吸うので精一杯。



「なんで、来ねぇんだよ」

「え?」

「いつもの自信はどうした」


さっきのことを言ってるんだ。



王子に一直線に駆けていく胡桃ちゃんを、あたしは教室の外で見ているしか出来なかった。


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