雨の降る街
それから、しばらく駅を行き交う人たちを眺めながら、ボンヤリとしていた。
ガラス越しにスッと影ができ、コンコンとガラスをノックされる。
ハッと見上げると微笑みを浮かべた彼だった。
視界に入っていたはずなのに、ぼんやりとしすぎていたのか、気づかなかった…。
私は苦笑いしながら、席を立つ。
外に出ると、彼は入口で待っていた。
「随分、待たせた?」
彼はそう言うと時計を見る。
時間に正確な彼が遅刻なんてするはずがない。
「ううん、私が早過ぎたの。気にしないで。」
「そう?ため息ついてたから、遅刻したのかと思ったよ。
…じゃあ、そろそろ上映時間だから、行こうか?」
そう言って、私達は映画館へと歩き出す。
…私、無意識にため息ついてたんだ。
今日が最後だと、分かってるから。
肩を並べて歩いていると、私の前に彼が左手を差し延べる。
−−最後だから。
彼にとって、良い思い出を作る為に。
私は彼を見上げ、にっこりと笑いながら、その大きくて綺麗な左手に右手を重ね合わせた。