クリヴァル
2
ブォー……ォー…
汽笛がなり、大きな船がタイリスの港に入ってきた。
大国、ジャド公国からの定期船である。
伝染病騒ぎで定期船は制限されていたが、この船は特別であった。
甲板には2つの影。
…異様な格好と言っていい、黒い鎧に過度の装飾。
全身を覆う黒い甲冑に、背負う大鎌は死神を連想させた。
「ねぇん兄貴?ストークは連れて来なくてよかったの?」
細身の影が問いかける。
「……出港の制限がかかる前にタイリス入りしているはずだ、まずは奴に状況を聞こう」
『兄貴』と呼ばれて応じたのは、大柄な男。
筋肉もそうだが、骨格も標準の大きさではない…。
「カ、カノーさんっ!そろそろ降ろして下さいよぉ~…」
ボーイソプラノ。人影は2人だったが、もう1人。
「あらんカロちゃ~ん?お姉さんのココは気持ちいいでしょぉ~?」
「なにがお姉さんですか!僕はカノーさんより年上ですよ!?」
グラマーな女性の胸の谷間に少年がいた。
ジタバタと抵抗するものの、女の腕力は余程強いのかビクともしない。
耐えかねた少年は一瞬身体を光らせ、魔法の力で女の手から抜け出した。
「もう、ツレないコねん」
地に足がつくと、身長は女の腰から下、大男からみれば膝から下の可愛い少年だった。
カロちゃんと呼ばれていたのはカロン。
幼いのではない、歳をとれど姿に変化の少ない種族なのだ。
大男、美女、子供。
並んでいたとしても、家族にも見えない…。
「…着いたな」
ぐんぐんと陸が迫ってきていた。
船が港に到着し、3人が船から降りると同時に1人の男が出迎える。
タイリスの守衛である。
タイリス共和国…領土こそ狭い国だが、鉱山による富と、発明、技術力によって栄える国である。
その分魔道に関する知識は低いと言えたが、魔力を秘める鉱物からエネルギーを抽出する技術は、様々な発明を生んだ。
守衛に簡単な国の説明を聞き、お互い一礼をして別れる。
巨体は遠ざかる守衛の背中を見送った。