クリヴァル
「…要人は王宮区に避難している、か。感染の酷い鉱山区は隔離されているというのにな…」
巨体は軽く額に手をあて、唸る。
この国の民が不憫でならない、そんな感じだった。
使えるべき主に恵まれない、その窮屈さを男は知っていた。
「ふぅん…じゃああのコ鉱山区に居るのねぇ……」
胸を強調した鎧…カノーが巨体をつついてニヤリとした。
「兄貴、早く行ってあげましょ。2週間も前に着いてるなら、あのコ…もたないわよぉ」
いかにも意味ありげにカノーは含み笑いをする。
鉱山区に隣接した商業区を歩く3人、様々な店の立ち並ぶこの区画だが、人影はまばらだった。
先頭を歩く巨体は、名をボルグという。
元々は北に住む種族、ゼウスの1人。…意味するは神々の生き残り、一回り大きい巨体が特徴だ。
この地の大半を占めるヒューマンの中ではどうしても浮いてしまう。
後ろを歩く2人の黒い鎧が師匠と仰ぐ人物である。
……弟子はもう1人いるが。
「この国には、黒い風が取り巻いている…感じることのできる者がいるかは分からんが」
「ここの国って機械には詳しい人が多いのに、感覚的なことにはボケてるのよねぇ…」
カノーが肩をすくめてみせた。
「兄貴、ストークさんが『もたない』ってどういうことですか?」
歩幅の違うカロンは小走り気味になっている。
注意がボルグにそれたのを見て、カノーが抱きかかえようと手を伸ばすが、巧みなステップでそれはかわされる。
「……会って、やつの顔を見ればわかる」
巨体は愛弟子に思いを馳せ、目を伏せた。