クリヴァル
ふうふうと荒い息をつき、折り重なった屍を前に一瞬気が緩んだ。
「カノー!!」
ちょうど死角になる位置であったが、その気配に小さな魔法使いが気付いて声をあげた。
ピシャアッ
死に損ないの、人形が一匹。大きく開いた口から消化液を吐きつけた。
カノーの胸元に命中し、鎧の隙間からカノ―の素肌へ浸食する。
「ぐっ…」
小さく呻き声をあげて膝をつくカノ―。
カロンがすぐさま人形の首をはねてカノ―に駆けよる。
「カノー!!」
「ざ…この、くせに……」
カノ―が片手で冑をむしり取るように外すと、その美貌が露わになった。
きっちりと編み込まれた銀髪が形のよい頭を添うように回り、キリリとしたその切れ長の瞳は苦しげに閉じられ、眉はしかめられている。
「カロちゃあん…ちょっと、痛いかもぉ…っ」
「当たり前です、外しますよ」
カチャとわき腹のベルトをはずし、思い切りよく甲冑をはぎ取り胸部を露出させる。
「…応急手当でいいのよ、カロちゃん」
白魔法と呼ばれる、治癒魔法は本来は高等魔術。
媒体なしで魔力のみで実行するのは、もちろんカロンならではのこと。
しかし消耗は激しい。
「この先、まだお仕事待ってんだから…」
「黙って。息を楽に。」
(応急手当だと?肌に痕が残ったらどうする気だ…!)
「…イディアスの地に住まう女神アロンよ、我に力を…
…我が血肉と引き替えに、彼の者を癒す
…彼の者の苦痛に、我が身の平穏を代える 」 」
ボーイソプラノが歌うように響いた。
カロンの両手が乳白色に温かく輝き、傷口が途端に淡く光る。
10分程たっただろうか、カロンが口を開く。
「…………もう大丈夫」
カロンの声にカノ―が視線を自分の胸部に移すと、すでに傷口は見当たらなかった。
「……すごい、頼りになるわぁカロちゃん」