クリヴァル
何度かカロンの治癒術を目にはしていたカノ―だが、自分はかなりレベルの高い治療を受けさせていただいたようだ。
白魔法に縁遠い彼女には、跡形もなくなった傷跡が奇跡のようにも感じられた。
なんにせよ、カロちゃんの消耗は気になるが、傷口が全く残らなかったのはこんな状況でも女である自分には嬉しい。
「ありがとう、カロちゃんは大丈夫?」
「このぐらい大丈夫です。さ、兄貴たちに遅れをとったかもしれない、急ぎましょう」
カロンはいつも通りにっこりと笑ってカノーを促した。
カノーは頷き、歩を前に進める。
彼女の後ろ姿を見つめるカロン、視線が外れたのを見てつい胸元に手を当ててしまう。
(………いたた。女のくせにホントに無茶をするんだから。…これは痕になるな)
ゆったりとしたローブの下では、彼女の胸元にあった爛れ傷がそのまま少年の身体にあった。
カノーの自然治癒力を高めて、傷口を治癒させることもできたがそれでは身体に痕が残ってしまう。
これを気付かせる気は、ない。
気付く時には自分がカノーに想いを打ち明けた後であろう。
(…これを僕の愛の誓いにしてもいいな。……こんなものでは安すぎるか)
「カロちゃーん?どーしたのー?」
前方からカノーの声が響く。
「なんでもありません、…今いきます!」
カロンは胸に宛てた小さな手のひらに少しだけ魔力を集中し、一息ついてから小走りに後を追った。