クリヴァル

-----タイリス鉱山区---------



鉱山区は男たちの職場。

空気も悪ければ、騒音も激しい。

鉱山区の居住スペースに暮らすものは、大抵が貧困層だった。

急速に広まる死病の影響か、騒音といえるほどの音は無い。


ただ耳を澄ますと聞こえる叫び声が、この区画が異常であることを告げていた。


「大丈夫か…?これ食べれる?」


青年――ストークはベッドに横たわる少女の看病をしていた。

ベッドの脇に膝をつき、少女の顔を覗き込む。

その仕草は王女に使える騎士のように配慮に溢れたものだった。


……この男、すべてが絵になる。

麗しい横顔も、今は眺めている場合では無かったが。

リゾットをスプーンで口まで運ぶと、少女は薄目をあけ、男の方をみた。


(瞳が黒い、この子はもう……)


「……死にたい…殺して…ぇ…」


わずかに開いた口からこぼすのは、そんな言葉。

調合した鎮痛剤のせいで意識が朦朧としている。


まばたきする黒い瞳から、涙がポロリとこぼれ落ちた。

まだ10歳ほどの女の子である。


「…お願い、オレの為にそんなこと言わないでな」


ストークは汗ばんだ少女の顔を撫でた。

背を支え、リゾットを口に運んでやる。

母親はいない、今回の病で死んでしまったのか、他の区画に避難しているのか…この子は語らない。


「…お兄ちゃん、抱っこして」


「…うん」


ギュッと強めに抱きしめた。

そのまま寝息をたてだした女の子を、洗われたシーツに変えたベッドに横たえた。


「……」


外に出れば雲ひとつない青空。

空ににた深い青色の瞳は、男の金の髪によく映えた。

ときおり吹く生ぬるい風が、髪をさらりと揺らす。


白い肌、端正な顔立ち…男はこの街の風景にそぐわない存在だった。

引き締まった身体に背負う一本の大剣、さらりとした質感の黒の半袖シャツ。

肩にちょうど届くくらいの髪の長さ、小奇麗な顔だちだが男らしさは兼ねている。

立ち並ぶ民家からの苦痛の悲鳴が風の音に紛れ、その小奇麗な顔をしかめる。


「なんで…こんなことに…なっちまうんだ……」


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