クリヴァル
手持ちの薬はもうない、もちろん特効薬など初めから無いのだが。
ストークは薬を扱うギルドに足を向けた。
薬の知識には長けている、
ただこの病気を治す薬は無い。
自分には、ただ痛みを訴える人を見守ることしかできないのだ…
「思ったとおり、情けない顔をしているな」
低い声がした。
「!」
振り返る先に3つの影があった。
「兄貴!カノーにカロンも!…なんでお前らがここに」
『仕事着』姿の3人を見て青年―――ストークが怯む。
「あらん、『お前ら』なんて失礼ねぇん…ストークちゃん?」
真っ赤なルージュが笑みの形につり上がった。
鼻から上は黒鉄の冑に覆われているものの、その顔の輪郭や自信に満ちた口調から、かなりの美形であることが想像できた。
「私たちは大公様の命でここに来ているの、アンタにも同じ命が出ているわ」
女の声はゆるがない。
「…感染源の特定!…感染源の除去!……それがままならぬ時は――感染者を1人残らず排除……」
ジャド大公の命令、それは仕える自分たちにとって絶対的なもの―――。
「解決方は必ずある…、生きている人がいる間は決してあきらめちゃいけない…!」
冷たい汗が頬をつたう。
青年にとって逆らってはならぬ唯一の相手、敬愛すべき大公様。
「2週間前にタイリス入りしていたようねぇ、何か成果は得られているのかしらん?
今この国にあるのは、史上最悪の伝染病…他国に広がる前になんとかしなければならないの。
…頭の良いストークちゃんなら分かるわよねん?」
一刻の猶予もない、自分たちが最優先で考えるのはこの国と外交のあるジャド公国のことでなければならない。
ストークは黙り込むしかなかった…成果と呼べるものはなに一つない。
「ほぉら図星ねん、こんな汚い街で生きながらえたっていいこと無いわぁ」
アハハと笑うカノーを、静かに睨みつける青年。