クリヴァル
(実に惜しい…)
カロンはふっと小さな溜息を吐き、机から降りた。
部屋に荷物を降ろし、邪魔にならない程度の武器は身に付けたままストークたちの部屋に集まる。
カロンとカノーが羽織っているローブは、彼らが仕える大公様からの支給物である。
常に一定の波動を放出する魔力のこもったそれは、身体の周りに空気の膜をつくる。
空気による感染を防ぐためのものだった。
ストークの分も用意されていたが、彼は羽織っていない。
聞けば着いて早々に、街の孤児にやったというのだ。
渡した経緯は分からないが、価値の分かる者に売れば一生遊んで暮らせる額になる代物である……
簡単に手放せるのは、この男も普通では無いからかもしれない。
「さぁ、話をしようか」
小さな木のテーブルをストーク、カノー、カロンが囲み、身体のデカいボルグは壁にもたれかかった。
ランプの薄明かりに、4人の死神が照らし出される。
「…まず俺の結論を言うよ、これは伝染病なんかじゃない」
「……何を今さら」
多少のことで動じる死神達ではないが、皆少し目を見開いた。
自分たちはこれが伝染病であるという前提でこの国に来ているのだ。実際に病は広がり、惨々たる状況である。
「ストークさん、これが病でないと言うならなんと?」
カロンが続きを促した。
「感染した人の血液を調べてみたけど、何も無いんだ。健康体なんだよ、でもなぜか症状だけがある…どうしてか」
ストークが順に死神たちに視線を流した。
「……ストークちゃん、何が言いたいかは分からないけど、自分の力を過信しすぎじゃないのん?あなたにだって解らない病気だってあるでしょお?」
断定的な考え方はよくないわよ、とのカノーに、青年が応えて頷く。
「その通り、俺は確かに万能じゃない。でもこれは病気なんかじゃない」
ストークにはまだ仲間たちを納得させられるだけの材料を集めきってはいなかったが、言い切らなければ手際のよい彼らが何をするか分からない。
2週間苦しむ人たちを目の当たりにし、あらゆる可能性を考えた。
「…この病気にかかる前に、みんなに共通していることがあるんだ」