運命の糸
【真実の糸ー32】




黒川は…

会長の秘書を続けていた







それは、
クローン達が大事に
育っていく為に

これ以上
命の犠牲を
出さない為に…







だが、
会長と呼ばれる
あの女の能力は
凄かった。







未来を予知する能力…







もし黒川が
クローン達を
作らないように
警察に報せようもんなら

その前に
会長に捕らえられのは
目に見えていた。







だから…

だからこそ
せめてクローン達が
元気に育つよう、

精一杯の愛情を込めて
見守り続けてきたのだ。







時には悪を演じてまで
祐平達の前を憚り、

時には
クローンと言われた
永斗を前にして
黙っているように、

いつだって
心乱すことなく
チャンスを伺い、

永斗を
助けようとしていた







そんな息子のように
愛情を注いでいた黒川。






自分の命を出してまで
永斗を助けたかった。







永斗を見捨てることも
ガスにためらうことも
なく、

その大きな背中で
最後まで守り通したのだ






「何とか言えや!!
黒川ぁぁぁー!!!!」







輸送装置に運ばれ、
遠くから永斗の叫ぶ姿が
見えている。







「………」






それを黙って見送る
黒川。






男は
最後の最後まで
沈黙を通した。






冷静沈着で
寡黙な口……






決して
開かれることがない真実






ただ男は

幸せになって欲しいと
心から願っていた。





崩れ行く施設の中で
ただ一つ開かれた言葉…






「坊ちゃん…
優しく………

幸せに生きてください…」





その小さな言葉は
聞こえるハズもないが

何故か永斗の耳に
強く残った……
< 139 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop