【完】甘いカラダ苦いココロ
扉が閉まる注意を促すアナウンス。手を離そうとすると逆に手を強く握られた。
「え……!?」
バランスを崩してその胸に寄りかかるような形になる。目の前で扉がゆっくり閉まった。見開きすぎた瞳が乾燥しそう。彼は私の手を引くように掴んで新幹線側に乗り込んだのだ。
「……なんで!?」
「その顔」
「え!?」
「そんな顔されたら、帰れなくなるだろ?」
社内のクーラーも効かないほど、全身が一気に熱くなる。一体どんな顔をしてた!? でも、今はそれより、何より目前の大きな問題に呆然としていた。
「翔梧。 扉閉まっちゃったんだけど……」
「知ってる」
「これ、新幹線だよ!?」
「うん、知ってる」
見上げる彼の余裕の表情を理解できないで固まる私をおいて、再びスーツケースを持ち、歩き出した。