【完】甘いカラダ苦いココロ
この車両は全席指定なはず。でも翔梧は当たり前のように私の席の隣に座る。
「ここ、指定席だよ?」
立ったまま戸惑う私に翔梧は手にした切符を見せた。
「平日で、空いてて良かった」
嘘……。切符には確かに隣の座席が記入されていて目を見張る。
「言っただろ? 送るって」
驚く私に悪戯っぽく笑う。大人っぽく見えるのに、笑うとあどけなくなる。その顔を見るといつも何も言えなくなってしまうんだ。
現状をうまく飲み込めないまま、椅子に腰を下ろす。翔梧が隣に居る。あり得ないこの状況が理解できない。何から話そうか、頭の中でぐるぐるまとめていると、聞こえてきた隣からの静かな寝息。
――えっ寝てる!? 今、ここで寝るかな!?
その太い神経とギャップがありすぎる無垢な寝顔に、胸の奥が、きゅっと痛くなった。