【完】甘いカラダ苦いココロ
「……や、沙耶〜」
誰かが私の名前を呼ぶ。そうだ、私……今日は本社に行って、それで……。え!? 再び、寝過ごしたかとはっとして目を開ける。と、息がかかるほどの距離に翔梧の顔があった。
「!!」
飛び上がる私に苦笑いする翔梧。
「驚きすぎ、準備しなよ。もう着く」
口に軽く握った手を当てて笑っていた。その余裕な笑いは紛れもなく翔梧スマイル。
夢じゃないの……?
白昼夢からまだはっきり覚めない頭。ばくばくと音をたてる胸に手を当て、熱くなる頬をもう片方の手で押さえて、濡れてる頬に気づいた。
「どうした?」
少し心配そうに首を傾ける翔梧。
「ううん、別に」
そうだ。よっぽどこっちの方が夢の中みたいで、現実感がない。でも、それでも。簡単に降りる準備をしながら、ちらりと翔梧の横顔を盗み見る。そしてため息をついた。
さっきのが、夢で良かった……。ココロから、そう思ってる自分がいた。