【完】甘いカラダ苦いココロ
二人の距離
蒸し暑い夏の夕暮れ。まだ鳴き続ける蝉の声の中しばらく二人共口を開くこと無く、黙って抱き合っていた。
『沙耶……好きだ』
さっきの囁きが
耳の中で、
私の中で、
何度も何度もリピートされる。
ゆっくりと顔を上げる翔梧。そっと私の頬に触れるその指先は小さく震えていた。
カチャン――。
聞き慣れない鍵の開く金属音に驚いて振り返るとマンスリーマンションから住人の人影。反射的にカラダを離す。二人の間に抜ける、生暖かな空気。寂しさを感じる自分に恥ずかしくなる。
「部屋、入ろうか。コーヒーでもいれるよ」
込み上げる羞恥心に、まっすぐに顔が見られなくて俯いて言ったから
「うん」
短い返事をする翔梧の表情は見えなかった。