【完】甘いカラダ苦いココロ
振り返ると、肩越しに覗く翔梧と目が合う。火照る頬に気づかれたくなくてすぐに目を逸らした。
「携帯――後でいい?」
誤魔化すように早口で言う。
「いいよ。帰るまでだったら、いつでも」
すぐ耳元に聞こえる彼の甘い声。『帰るまで』そんな些細な言葉にも切ない気持ちになる。水の中で彼の指が、そっと私の手を撫でた。本当に今さらなんだけど――。近過ぎる彼に過剰に緊張してる私がいた。
背中から回された翔梧の大きな手は私の手をすっぽり包み込んでしまうし、広い肩幅に身長差は三十センチ以上ある。その長い腕の中に私は簡単に隠れてしまう。
こうしていると嫌でも意識する。翔梧のカラダ……。心臓の音が翔梧に伝わってしまいそうだ。部屋に響くのは水道から流れる水音だけ。
「沙耶……」
翔梧はまだ私の指を冷やし続けている。