【完】甘いカラダ苦いココロ
そして今に至る。少し汗ばんだ、気だるいカラダを支えてゆっくり起き上がった。目覚めた今もまだ夢うつつなまま、周りを改めて見回す。
部屋中に漂う独特の消臭剤や消毒液の匂い開かないように蓋された窓。安っぽいピンクとゴールドの柄の壁紙に、天井にはシャンデリア。丸いフリルがいっぱい付いたやたら豪奢なベッド。中世の寝室とかがテーマの部屋なのかな?ホテルの意向は理解できないけど……。
もう一度、隣を見る。そこに眠る彼は、まるで異国の王子様みたいだった。
「ん……」
艶っぽい息を洩らして寝返りを打つ彼を思わず息を詰めて見つめてると、再び静かな寝息が聞こえてきた。息を吐き力を抜く。
ベッドサイドの時計は朝の七時を示していた。ここのホテルは見覚えがある。クラブから程近いから歩いて駅まで行けるはず。遅番は11時半からだから一度家に帰っても余裕で出勤出来るだろう。よく眠ってる彼を起こさないようにそっとベッドから降りる。
バスルームのやたら大きな中世風の鏡には、疲れたように化粧崩れしている顔が映っていた。一瞬で夢が醒める。
魔法は解けて
馬車はカボチャに
馬はネズミに
シンデレラは
汚れた服を着た地味な町娘に。
王子様だけは変わらず美しいまま……。