【完】甘いカラダ苦いココロ

 一瞬、私を映す瞳が揺れた。

「そうか、完敗なんだな」

 長いため息をついて背中を椅子に預け、前に手を組む。

「沙耶ちゃんが幸せなら……。いいのかな。本当は今、ここで拐ってしまいたい。けど、キミが幸せじゃないと、意味がないから」

 その姿勢のまま、想いを圧し殺して絞り出すようなセリフを吐いた。そのココロの奥にあるのは、私への憤り? 悲しみ? 怒り? どう思われても仕方ない。もう、私には好意をもってもらう権利なんてないんだから。

「ごめんなさい。――本当に……」

 なんで、わたし。こんなにいい人を傷つけてるの? 居たたまれなくて、バッグを掴んだ。帰ろう。これ以上一緒にいても、この人を苦しめてしまうだけなんだ。少し迷ってから席を立つ。

「さようなら……山内さん」

 ありがとう。ココロを込めて、感謝が伝わるように、最後に口の端を上げてなんとか笑顔らしいものを作る努力をしたけど、この涙目じゃあ失敗してるだろう。


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