【完】甘いカラダ苦いココロ
そのまま彼の横を通り過ぎようとした、その瞬間。
腕を捕まれ強く引かれた。バランスを崩す。
「きゃっ……」
山内さんに抱きつくような格好になった。彼の手が私の背中に回る。
「や…まうち、さん?」
比較的死角になってる席。でも、他のお客さん達の視線を感じる。少し抵抗するように胸を押すと、抱き締める力が更に強まる。
「無理矢理にでも、奪えばよかった……」
すぐ耳元で囁かれる熱い言葉。
「好きで、好きで、大切過ぎて、こうして抱き締めることすら出来なくて」
顔を上げるとすごく傍に彼の顔があった。その、咽ぶような恋の色香に息を飲む。
「本当はね。他の男になんか、やりたくない」
細めた瞳は潤んでる。ココロの中に浸透するような、その熱くて甘くて苦しい囁き。目を逸らさないと、飲み込まれそうだった。こんな山内さん、見たことない。まったく知らない男の人の様で、怖いのに胸を揺さぶられる。唇が触れそうなほどの距離。心臓は不安と緊張で潰れそう。