【完】甘いカラダ苦いココロ
その瞳は沈んだ深い色、眉は苦痛に歪んでる。それはまるきり泣き出しそうな小さな子供のようで言葉を無くす。
嘘ついて、ごめん。私がそう謝る前に、翔梧が口を開く。
「後悔してる?」
「――え?」
「俺を選んだこと」
言ってる意味が分からなくて呆然と彼を見つめる。そんな私としばらく見つめ合ってから、ゆっくりとした動作で傘を拾う。そして、また、私に傘を差しかけてくれた。
「会いたくて、会いたくて堪らなくて。迎えに来たんだ」
言葉を紡ぐ、さっきまで重なっていた翔梧の唇が卑屈に歪む。
「でも、他の男と会って、あんなに泣いてる姿見ると。正直たまらない」
端正なその顔が悲しげに陰る。傷つけたんだ、私。その事に気づいてハッとする。違うのに。そうじゃないのに。
「後悔なんてしてないっ」
歯痒くて叫ぶように答えた。
「間違いなく。私が好きなのは翔梧だよ」
今度は想いを込めて。ゆっくりと噛み締めるように言葉にする。
「翔梧だけが、好き」
私の壊れた涙腺から、またこぼれる滴。