【完】甘いカラダ苦いココロ
翔梧。大学生。
それ以外何も知らない。あのクラブにはたまに顔を出していると言っていた。照れながら、踊るのはあんまり得意じゃないとも。踊らなくても彼はとてもその場に馴染んでいて、その仕草一つ一つが全部絵になっていた。
夜の空気がそう見せていたのか。彼の魅力がそうさせてたのか分からないけど。
――あのクラブに行けば、また会えるのかも……。
でも、きっと私はもう行かないだろう。
帰り際、ホテルにメモの一つも残して来なかった。彼の事を何も知らなくても、カラダが覚えてる。長い指。滑らかな背中。綺麗な筋肉の動きとその熱い体温。
寄せて返す波のような一度きりの夢の時間。寂しい気持ちがまったく無いとは言わないけど……。乾ききった世界に染み込んだ一滴の甘い記憶
私はそれで十分だった。
彼もきっとそう思っているだろうから。