【完】甘いカラダ苦いココロ


 狭い受付でお金を払って、手に見えないインクのスタンプを押される。派手な色や露出度の高い服に包まれた男の子や女の子達が溢れているロッカールームまで音楽が漏れ流れていた。
 
 お酒と 
 化粧と
 香水と
 たばこ。

 夜の臭いがした。

「今夜は結構メジャーDJが来るクラブイベントなの。オールジャンルだからお姉ちゃんも楽しめるよ。ここは男子のレベル高いしね〜」

 耳元で話す実貴の頬が高揚している。最近夜遊びが増えた理由の一つなんだろう。このクラブにも顔見知りがいるのか所々で挨拶をかわしている。その場の雰囲気にのまれながら、目が慣れるとなんだか自分の格好も普段着に見えてくるから不思議。

 クラブのメインスペースに入ると色とりどりのライトが光のメリーゴーランドのように忙しなく照らし、会場中を駆け巡っている。黒々とした大きなスピーカーが鼓膜を震わせる。

――クラブなんて何年ぶりだろ。

 気持ち良さそうに踊っている人、
 隅で小さく揺れている人、
 踊ってるふりして相手を物色してる人
 手を繋いで輪になって踊ってる人たちもいる。

 みんな楽しそうだけど、寂しそうにも見えた。実貴が言うように、自分が寂しいからそう感じるのかな……。小さくため息をつく。なんとなく踊る気にもならず見回すとすでに実貴とは、はぐれてしまっていた。


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