【完】甘いカラダ苦いココロ

「心配だから。明るい道に出るまで」

 暖かい手は正直安心したけど、私は戸惑ってしまう。

「大丈夫。下心はないよ」

 きっぱりと私の目を見ながら言いきる山内さんの本心がわからなくて見つめ返すと、おどけたように付け加えた。

「今はね」

 思わず笑ってしまうと、それをオッケーだと取ったのか山内さんは私の手を引いて歩き出した。男の人とこんな風に手をつないで歩くのは何年ぶりだろう。翔梧とは外をこんな風に寄り添って歩いたことがない。
 お酒のせいか、山内さんの人柄か。緊張はいつか解れてしまっていた。ゆっくりと大きな手に引かれて、まるで小さな子供になった気分だった。

 信号待ち。繁華街のネオンをぼんやり見回しながら行き交う車越しの向かい側に目を止める。

 瞬間、心臓が大きく揺れた。

「あれ、モデルのRINAじゃない?」

 隣の若いカップルが噂する。その信号の向かい側にはRINAの姿があった。最近よくファッション雑誌の表紙を飾っていて、トーク番組でもたまに見かける人気モデル。綺麗だけど可憐でハーフ独特の明るいキャラクターがとくに若い世代に受けていた。夜なのに大きなフレームのサングラスをしてキャップを目深に被っている。長くて細い手足は隠しきれなくて、逆に目立っていた。

 でも、私が目を奪われていたのは、RINAではなくて……。

「あの隣にいる男って誰? スゴいカッコいいけど、モデル?」
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