夕陽の向う
4-3

睦子は、元の顔を見たかもしれない。

でも、ここは、引き下がらなかった。


「喧嘩とかする気は無いの。

元がどう思っていてもいいの。

そう考えるのが元が一番元気でいられるように、考えていいの。

でも、私は信じているのね。

死んでみれば判るわよ。

死んだ先にあの世があって、
それは天国でもなくて、もちろん地獄でもなくて、
違う生き物に生まれ変わるのでもなくて、
今ここと同じように世界があるのよ。

そこで、元はまた、私と夫婦になるの。

だから、死んだ先にあの世があったら、
もしもあったらね、元、ちゃんと私のこと待っていてよ。」


元は答えた。

「わかったよ。」

元も言い争う気は無い。

死んでみたら判ることだとしておこう。

本当は、元は、死んだら無になると考えているので、死んでも何も判らないと思ったけれど、もちろんそんなことは口にしない。

ただ、その後、睦子のこの思いは、ずっと元の心に残った。

死ぬまで、考えていた。


『睦子と同じように信じるのが、正しいのではないか。

自分の正しい選択ではないのか。』
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