夕陽の向う
4-8

元が逝ってしまって、1か月が、流れるように過ぎた。

いろいろな、セレモニーもあった。

たくさんの人が、睦子を訪れて、慰め、元気付けてくれた。

ありがたいと思う。

たくさんの友達もまた、元の遺してくれたものだと思うと、本当にありがたいと思う。



今日も、睦子は、家の裏の丘の上に立った。

数え切れないほど、何度も、元と二人で見た景色がそこにある。

夕陽が、空と海を染めて、伊豆の向こう側に沈もうとしている。



『夕陽は、山の向こうに行って、見えなくなっても、太陽が無くなるわけじゃないんだからね。』

山の向こうに沈んでも、太陽は、無くなるわけでも、形を変えるわけでもない。

ここから見えなくなっただけで、向こう側に行ってみれば、おんなじ太陽がそこにはあるはずだ。

『だから、元も、向こう側に行っても、そのままで、私を待っていてよ。』

問いかけた空に、元の顔が浮かんだと思った。

『元…』

呼びかけようとした時、睦子は突然気が付いた。

突然、はっきりと、気が付いたのだ。


『元は、『ゆっくり』と言った。』
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