夕陽の向う
1-5

診察が終わって食事をした。

元はこの前の手術以降、食べるのに時間がかかる。

喉が複雑に変形しているからだ。

食べ物が肺のほうに入ってしまうと肺炎を起こしてしまう。

呼吸を確保するために、気管につながるプラスチックのチューブも、喉から出ている。


少しづつ、ゆっくりと食べる。

そんな元の顔を、睦子は何度も見た。

この前の手術の後、咽頭部をかなり切除したので、生活は少しは不便になったけど、病状は回復して良い方向に向かっているように見えた。

睦子はそう信じていた。


「余命6カ月なんて、本当のことなんだろうか。
本当に本当なんだろうか。」

でも、一緒に来てよかったと、つくづく思っていた。

「こんな話、元だけで聞かせられない。」

それでも、元にかける言葉は見つからない。


元も睦子の顔を時々見ていた。

睦子が一緒に来てよかったと思う。
もちろん、いてくれれば気持ちの支えになる。

それよりなにより、こんな話を、自分ひとりで聞いて、それを後で睦子に伝えるなんて出来やしない。
一体、なんて話し始めていいかさえも判らない。


睦子が動揺しているのが判る。
それを、できるだけ元に見せまいとしているのも判る。

元としても、睦子にかける言葉が見つからないでいた。


食事が終わって、駅近くまで来た時、睦子がようやく言ったのだ。

「先生のこと、見返してやりましょうよ!」


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