夕陽の向う
1-6

「元がね・・・。」

睦子は翌日、友達に電話をかけた。

こんなこと、自分ひとりの胸にしまっておくなんて出来やしない。
自分ひとりの胸では、すぐに破裂して飛び散ってしまう。

それから、その他にも、たくさんの友人に電話してしまった。


元の仲のいい、昔からの友人の奥さんは、結婚してからもいろいろなことを相談し、楽しみを分け合ってきた。

今回の最初にガンの診断を受けてからも、病院のこととかいろいろと相談に乗ってくれている。
優しく冷静に、

大丈夫。落ち着いて最善を尽くすしかないよ。まだ希望もゼロじゃないし。」

と言ってくれる。


最近夫を事故で亡くしている友達は、電話を受けるなり自宅に飛んできてくれて、手を取り合って泣いた。

一緒に泣いてくれる人がいるだけでも、自分が少し冷静になれる。


そして思うのは元の気持ちだ。
今、どんな気持ちなんだろうか。

とても平静に、過ごそうとしているのが判る。
でも平静なんかでいられるはずないのに・・・。

『元、大丈夫だよね。無理して頑張ったりしないでね。』

思うのだけど、口にはっきり出すのが難しい。
そのことが、元の心を傷つけそうで。

「生きることって、命って何だろう。
こんなに難しいことだったっけ?」

< 6 / 27 >

この作品をシェア

pagetop