夕陽の向う
1-7

『人生って何だろう。』

元は思う。今までもいろいろ考えてきた。

特に最初にガンの宣告をされてから、2度の手術を受けるたびに、

『これで死ぬかもしれない。』

と覚悟してきた。

でも、その時も、不安や残念な気持ちはたくさん有ったけれど、絶望的にはならなかった。


自分の心の中には、

『これで死んでも、仕方ないか。』

と思う気持ちが有ると思う。

それは、ずっと生きてきた中で、どうしてもこれだけはやっておきたいとか、ここまでは到達しておきたいとか、絶対的な目標を特に決めなかったからだろう。


今できることを、精一杯やって、今を楽しむというのが目標だった。
だから今、仮に今、死んでも、『やり残したこと』が有るわけではない。

あえて言うなら、睦子や、家族や、知人たちに、できるだけショックを与えないように、皆の生活に支障が生まれないようにしたい。
特に睦子には、今後の人生も幸せに過ごしてもらいたいと思う。

そう考えながらも、元は

『自分は、自分の心に見栄を張っているのかも知れない』

と思う。でも、それでもいいと思う。

『こんなときでも、他人の気持ちの心配をできる自分がいる。』

と確認することが、自信になり、冷静を保つのを助けてくれる。

『死ぬまでかっこつけたって、いいだろう。男だし。』
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