葵街学園記

着物によく合う黒檀の黒髪がさらりと風にさらわれて、高世は面倒そうにそれらをかきやるとそのまま振り返った。

「で、君はいつまでそこにいるつもりかね?蛆虫めいた君にはお似合いの行動だが、私は不快に感じるので是非ともやめて貰いたいものだ。はっきり言うと死んでくれ、この昼行灯の銅鑼打ち男」

高世達のいる場所から少し離れた壁の裏から、青年が顔を出した。やたらと整った顔をしている。白皙の美青年とはこういうのを言うんだな、と律はらしくもなく思考に沈んだ。
高世は青年の姿を汚物でも眺めるような顔で見て、蛾眉を寄せた。
青年は高世の反応などどこ吹く風で思考に沈んだままの律に問いかける。

「初めましてと言うべきかな?最近『限界者』になった鏑木律さんで正しいかな?」

律はすぐに我に帰り、寝転んだまま答えた。

「あ、はい正しいですよ。私が鏑木律です」
「よろしくと言うべきかな。私は一人目の『限界者』、磐崎幽だ。常磐の磐に、山崎の崎、幽玄の幽でゆう、と読む。よろしく」
「よろしくお願いします」

そうは言ったものの、二人とも触れあおうとしなかった。
二人のやり取りを半目で睨むように観察していた高世は小さくは、と空笑いした。

「あのゴミの差し金かつくづく狗のような人間だな君は」
「仕方が無いよと言うべきかな。あの人は私の創造者だ。言う事を聞いて置くのが得策じゃないかな」
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