葵街学園記
幽の嘲笑ともとれる微苦笑を忌々しげに眺める高世。
よく事情が分かっていない律はおろおろと二人を交互に見やるのみ。
幽は彼にしては珍しく、口元に刻んだ笑みを消して言った。
「君の武器が言葉だけでは無い事くらい分からぬ私ではないよ。どこまで知っているかはともかくとして」
「その口を閉じろ、出来損ないが。アカシャの論理から外れた者が因果律に加わろうとは笑止」
「君がそれを言うのか、と言うべきかな」
「下らぬ口癖をつけねば私と向かい合う事さえ敵わぬ地下人風情がよくもそんな口を叩けたものだ。地下人は地下人らしく地に伏すのが身分相応というもの」
高世はいつものように、口元に弧を描いた。艶やかな紅い唇がこの上無く妖艶につり上がる様は舌戦を感じさせない美しさがある。
まるで、雪の美しさ。
暖かみを予想させる色でありながら本性は突き刺すような冷たさ。
高世が雪に身を伏すところは至極綺麗なのだろうなと季節を度外視して律は思った。
高世の言葉のどの部分に反応したのか分からないが幽は今日初めて不快げに眉を寄せる。
作った笑みよりは人間らしい。
幽は高世の手から唐傘を奪いとると踵を返す。
「だから私は君を好きになれないんだ」