葵街学園記
幽の背を見送り、笑みを消すと高世は忌々しそうに吐き捨てた。
「……薄汚い、モルモットが大層な口をきく。不快だ、ああ不快だとも」
「高世?」
高世の空気がいつもと違うような気がして、律は尋ねかけた。
高世は律からは表情の見えにくい位置に立ち止まったまま、言葉を紡ぐ。
「下等生物が、霊長たる人間に口をきいて許されるとでも思っているのかね、あのゴミムシは。
床屋という単語を厭らしい意味にしかとれない言語能力が著しく欠如した義務教育すらあわしい住所不定無職と同じくらいに下等で下劣で害悪でしかない輪廻転生すら許されぬような餓鬼道にでも落ちてしまえ」
珍しく、高世の暴言が分かりやすい。
それだけ怒っているのだろう、と乏しい語彙で理解して律はそのまま屋上の床目掛けて拳を振るった。
1トントラック同士がぶつかるような破壊音とともに、さながら隕石でも落ちてきたかのように床が抉れる。
半ば呆然としながらそれを見やる高世。
どこかすっきりと爽やかな笑顔で律は高世に持ちかけた。
「じゃあさ、殴ろうよ」
「君、いつもそれだな」
高世は暴言を吐くのも忘れて、溜め息をついた。