葵街学園記


く、と高世ははじめて小馬鹿にしたように笑った。
今までの可憐な笑みとは対照的な、侮蔑と悪意しか滲まない笑い方だ。


「君もあの寄生虫の被害者か。
オレオレ詐偽に引っ掛かる凡愚以下の思考力はよく分かったから早く巣に帰るべきだ。
暴力なんてものは『限界者』には通用せん。私も自分が中々の限界だと理解してはいるがあの魑魅魍魎どもと比べる気は一つも無い。
それこそ片手落ちと言うものだ」


高世の悪意しかないような、悪意そのもののような言葉を受けても律は揺らがなかった。
言葉は律にはあまり関係無い。

律は、本当の意味で暴力のみで生きているからだ。
もし高世が律に殴りかかってきたなら、律は躊躇いなく高世をぶちのめしてしまっていただろう。
しかし高世はあくまで言葉で攻撃してきた。この世の大多数の人間と違い、律は暴力でしか人の感情を理解できない人間だ。
その代わりに、全ての接触を暴力と受け取り、自らの会話である暴力を開始するのだ。


この学園にやってきたのも、そういう理由からだった。

高世の言葉とは違い、律の暴力は社会から浮いてしまう。

暴力でしか人を理解できないというこの「限界」は、律を孤独にした。

そんな律に声を掛けてきたのが、科学者であり学園の創設者、原居草室だ。

「私と一緒に『限界』を越えないかい?
何、簡単な事だ、『限界』に近付いた奴らと遊んでいればいいんだ。
君のような『限界者』でも彼らには関係が無いだろう」

律にとっては殆ど福音のようなものだった。
自分と同じような人間とはあまり触れあった事が無かったから。
だからこそ、律は高世に傾倒する。
先程会ったばかりの高世に心酔する。

「ねぇ、私達友達になろうよ」
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