中途半端なオトコマエ!
4、生きる
あの日以来、美沙はオレに親しみをもったらしくて、よく話しかけてくれるようになった。

路上ライブの予定を聞いては、時々、やってきてくれるようになった。

アルバイト帰りに立ち寄ることが多かったが、わざわざ電車で聴きに来たこともあった。

オレの事情を知って、手に入る限りのいろんな情報を教えてくれた……「カラオケ大会出場者募集」「ナントカ市民の歌の公募」なんての。

プロ歌手の端くれとしては、アマチュアのカラオケ大会やNHKのどじまんなんてのは、出場する気はさらさらなかったが、気持ちが嬉しかった。


ある日、たそがれ時の駅前ライブ。

美沙は一枚の紙を頭の上でひらひらさせてやってきた。

美沙の手に握られていたのは……

「『日本ポップス・コンクール』、これ、これ、絶対、出なきゃ」

「ああ、有名なコンクールだよ。それ」

「でしょ。これで認められたら、一流歌手の仲間入りよ」

「でも……」

「でも、じゃないよ。応募しなきゃ」

美沙の澄みきった、人を信頼してゆるがない瞳。

オレは歌にしたかった。

美沙を歌いたかった。


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