短編集
「うわっすげー人」


さすがクリスマスイヴ…

映画館は恋人達でごった返していて、

とてもじゃないけど、入れる状況じゃなかった…


というか、こんなにすごい人だったらチケット売り切れてるだろうな


チケットがあったらこっちのもんだけどさ


落ち込むあたしの前に
秀哉はにこにこしながら

ピラピラとあたしに何かを見せていた



『あっそれ…』

秀哉が見せていたのはあたしが見たがっていた
映画の前売券だった


「どーせ奈美はこれがみたいと言うと思って、昨日買いに行ったんだ」



照れながらそういう秀哉がとても愛おしく思えた


『秀哉っありがとう』



「奈美、早くしないと置いてくぞ」


映画館は本当にすごい人で、あたしと秀哉の繋いだ手が離れてしまいそうになった…


だけど、秀哉は離そうとしなかった



秀哉に握られた手は少し痛かったけど、あたしはなぜかこの手だけは離したくなかった



今思ったらあたしはこのときに、秀哉の異変に気付くべきだったんだよね…


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