短編集
「あそこに座ろうか」


『うんっ』

少し古ぼけたベンチ

ペンキも剥がれ少し汚かった。

だけど、あたしたちをきちんと支えてくれていた



今も昔も変わらずに…



ベンチに座ったあたし達は暫くのあいだお互い一言も話さなかった。


あたしは胸騒ぎがした

そんな不安に押し潰されそうなあたしに秀哉が口を開いた



「………俺達さあ、今日で会うの最後な」


えっ……今なんて?

聞き間違い…だよね?


あたしがなにかを言おうとする前に秀哉が話始めた


「俺さあ、急なんだけど明日アメリカ行くんだ。親父の会社の都合でさ


俺だけ日本に残るって言ったんだけど、俺今高3で来年大学生じゃん?


俺前から日本の大学に魅力を感じてなくてさ…」



そぅ話している秀哉の声も今のあたしには、なにも聞くことが出来なかった…



あたしの目は涙でにじんでいて今にも溢れそうだった
けど、あたしは聞きたいと思った


これが秀哉の最後の声になるかもしれなかったから


秀哉は時々あたしのほうを見ながら話を続けた


「俺、前から親父の仕事にすげー興味があって、アメリカの大学だったら本格的に勉強できるって言われたんだ…


最初はそれでも、日本に残ろうと思った。


日本には奈美も友達もいる。アメリカにいったら奈美も友達もいない…


ほら、俺ってビビりじゃん?ハハハ」



ときどき笑いながら話す秀哉。


横を見ると秀哉の目は少し光っているように見えた


「俺、毎日真剣に考えた


けど、考えれば考えるほど頭ん中俺の夢のことだけでいっぱいになって…


アメリカに行きたいと思うようになった


奈美にも相談しようかと思った。


けどな、俺奈美と話したら絶対日本に残っちゃうと思ったんだ」


あたしはいつの間にか涙が溢れていた。


どんだけ流れてもとまることはない涙…


けど、あたしはこの繋いでる手が離れないかぎり


この場から逃げ出すことはないって思った
< 5 / 22 >

この作品をシェア

pagetop