ユータナジー
狭い狭い現在を歩く俺等は、いつだって前にしか歩けない。
過去に戻ることは出来ないから。
「高梨由。」
「高梨さん。」
「先輩って呼んでくれ。」
キョトンとした顔をする彼女。
警戒を解いた一瞬。
「先輩?」
「お前、ずっとそう呼んでたんだ。」
過去を無くした彼女に、過去の彼女を求めるのは残酷だ。
「先輩、先輩…なんか、馴染み深い気がします。」
微笑する彼女に、涙腺が緩む。
…泣きそう。
自嘲気に笑ってしまいそうになる。
「なぁ。」
「はい?」