ユータナジー
初めて会った時、『琥珀ちゃん』と呼ばれて馴れ馴れしいと思った。
…違う。
三枝さんは、中学の時の剣道全国大会で私の姿をどこかで見た。
それか、話したりした。
私にはもう思い出せない記憶。
「というわけで!」
三枝さんは私の腕をつかみ、ぐんぐん歩く。
いやいやいや、出来るわけがない。
優勝を取ってから、竹刀には一度も触れていないんだから。
「誰か竹刀貸して!」
剣道場に入って、三枝さんが怒鳴る。
「そういえば、まだ引退してないんですか?」
「琥珀ちゃんと一回やってから引退したかったの。」
飛んできた竹刀。
反射的に受け取る手。